
ドミナリアに程近い次元の一つに、メルカディアがあります。広大な不毛の砂漠とその中央に鎮座する逆円錐形の岩山。その頂上には賑やかに繁栄しながらも腐敗のはびこる商業都市メルカディアが広がり、この次元を統べています。沿岸には海賊達の港町リシャーダ、海上の火山島にはマーフォークの海中都市サプラーツォ。また遠くには銀色の燐光を帯びた巨木の森ラッシュウッドと、死人が徘徊する鬱蒼とした暗き森ディープウッドが広がっています。
ラッシュウッドの森で、自然と調和し穏やかに生きる一族、チョー=アリム人。彼等はメルカディア人達によって森を切り開かれ、長きに渡って迫害を受けてきました。
チョー=マノは、若くしてその長となった、誠実で真っ直ぐな心を持つ人望の篤い人物です。
チョー=アリム人の間には、長く語り継がれる一つの伝説がありました。いつか彼等の守護神、空神レイモスが蘇り、メルカディアの支配を打ち破るのだと。ある時彼等は、夜明け前の空から翼を持った船が落ちてくるのを目撃します。チョー=アリム人にとって、それはレイモスの復活を知らせる福音でした。
その船の正体は、異次元ラースに誘拐された《艦長シッセイ》を救出し、《移ろいの門》を抜けて命からがらラースを脱出した《飛翔艦ウェザーライト》。ですが敵艦《旗艦プレデター》の攻撃と次元を超えた際の衝撃もあり、操縦不能に陥って墜落してしまったのでした。
ジェラード達は墜落地点近傍の農場に暮らす一家と接触し、この世界についての情報を得るとともに船の損傷具合を調査し、そして落下の衝撃で命を落とした乗組員を埋葬しようとします。しかしその最中、不可解な大洪水が押し寄せ、ウェザーライト号を流し去ってしまったのでした。船の医務室にいた数人の怪我人と、船医の《サマイトの癒し手オアリム》も一緒に連れ去られてしまいました。
洪水を起こしたのは、メルカディア人よりも先に船を入手しようと試みたチョー=アリム人達でした。数人の仲間とともに船に降り立ったチョー=マノは、激しい揺れに翻弄される船内で、懸命に怪我人の治療にあたっていたオアリムを見つけます。それは彼にとって、一目惚れと言っていい程に激しく心を揺さぶられる、衝撃的な出会いでした。そして言葉は通じないながらも彼女を宥め、船に乗せたままラッシュウッドの森へと帰還し、一族へと彼女を迎え入れたのです。
幸いなことに、優秀な癒し手として知られるサマイトの民であるオアリムにとって、自然と調和したチョー=アリム人の生き方は受け入れられるものでした。離れ離れになってしまった乗組員達のことは気がかりでしたが、オアリムは素直に自分の境遇を受け入れ、少しずつチョー=アリム人達と心を通わせながらラッシュウッドの森で過ごすことになるのでした。
ある夜、チョー=マノは一族の聖地である《チョーの泉》へとオアリムを連れ出しました。
そこは大きな湖の中心に浮かぶ小島で、銀色の木立の中心で澄んだ水が水盤から湧き出し、自然のままに湖へと流れ出ています。その美しい場所で彼はオアリムに、一族の生き方の根本である古くからの教え、流れる水と同じ生命の大いなる流れを語って聞かせます。チョー=アリムの理念はオアリムにとっても、癒し手として生涯求め続けてきたものでした。そして一つ一つの丁寧な言葉の中に込められた自分への想いは、とても心地良いものでした。
凛とした冷涼な空気の中、やがて二人は互いへの恋慕の気持ちを確かめ合うのでした。
一方のジェラード達は、ウェザーライト号を奪われた後にメルカディア市へと向かっていました。そして、傭兵集団であるカテラン組合と、カイレンと呼ばれる大型のゴブリン種族が街を、つまりはこの次元を実質的に支配していることを知ります。それでもウェザーライト号を取り戻すべく、又オアリムを助け出すべく、無理矢理彼等の協力を取り付けると街の軍隊にベナリア式の訓練を施し、ラッシュウッドの森へと大規模な襲撃を仕掛ける準備を整えました。
そして襲撃が決行されます。チョー=アリム人達は、それが過去に何度も繰り返されてきたカテラン組合、メルカディア軍のものとは明らかに様相が異なることにすぐに気がつきました。森の守護者でもある獣達も倒され、木々は焼き払われ、剣を手に取った者達も次々と殺されていきます。それが一方的な虐殺でしかないことにジェラードが気付いた時には、既に手遅れでした。難なくウェザーライト号を取り返し、オアリムをメルカディアへと連れ帰りますが、多くの兵士を死なせてしまったという罪に問われ、またしてもウェザーライト号を奪われ、幽閉されてしまいます。
襲撃によってチョー=マノもまた死んだと思われていましたが、チョー=アリム人としての強靭な生命力を持って生き延びていました。彼はしばしの間身を潜めた後、同じく生き残った仲間とともに反撃の機会を伺います。また、メルカディア人の中にもカイレン・ゴブリンの支配をよしとしない者達がおり、彼等と密かに手を組むと、昔から協力関係にあるマーフォーク達と接触すべく海中都市サプラーツォへと向かいました。
同時期、ジェラード達の幽閉を解くことと交換条件に、サプラーツォの至宝である《パワー・マトリックス》を借り受けるべくシッセイとオアリム、《航行長ハナ》の3人がサプラーツォを訪れていました。協力者であるサプラーツォの大臣からそう聞かされ、チョー=マノは未だ失意の中にあるオアリムの前に姿を現します。オアリムは心から驚き、そして再会を喜びますが、彼女は衛兵を殺害し、パワー・マトリックスを奪ったという疑惑をかけられていました。
その無実を証明する為に、チョー=マノはオアリムに特殊な魔法をかけ、互いの精神を重ね合わせて記憶の奥底を探ります。心の内を全て曝け出し合うその術はとても辛いものでしたが、オアリムはそれを受け入れます。そして記憶の全て、人生に触れ、そして何よりも互いへの深い想いを知り、無実を証明するとともに、二人はより深い絆を手に入れるのでした。
そして無事にサプラーツォの全面協力を取り付け、メルカディア市へと向かいます。
一方、メルカディア市に残っていたジェラード達は人質として幽閉されている間、ラースから救出してきた仲間の一人であるタカラの行動に不信感を抱きます。この次元に辿り着いてからというもの、彼女の助言に従って行動することが多かったのですが、それはことごとくメルカディア市の側に利益をもたらし、逆に自分達の境遇は悪化するばかりだと気付いたのです。
そんな中、ゴブリンという種族の特権を生かして自由に行動していた《ゴブリンの太守スクイー》の機転によってジェラード達は幽閉から脱出する機会を得ます。それと同時に、オアリム達がメルカディア市へと密かに戻ってきました。それはジェラードにとっても、行動の方針を転換する丁度良い機会でした。
チョー=マノはジェラードの心からの謝罪を受け入れ、手を取り合い行動を開始します。目的はメルカディアの支配を打倒すべく大規模な叛乱を起こすこと、市の何処かに隠されたウェザーライト号を探し出し取り戻すこと。幾つかの役割を分担し、力を合わせて行動を開始しました。
ジェラード達はレイモスの遺物を探しにディープウッドの森へと向かい、そこで森のドライアドから伝説の真実を聞かされます。
四千年以上の昔、ドミナリアで大きな戦争がありました。
優秀な工匠の兄弟、ウルザとミシュラが発見した古代の遺物を取り合ったことがきっかけで勃発し、ドミナリアに大災厄と氷河期をもたらしたそれは「兄弟戦争」と呼ばれています。その終結の直前、最終決戦の地アルゴス島を飛び立った一体の戦争兵器がありました。
彼の名はレイモス。元はファイレクシアで作られた兵器、《ドラゴン・エンジン》であったそれはウルザによって改造を受け、難民達を乗せてアルゴス島を脱出したのです。彼等を救うという使命を受け、レイモスはファイレクシアを経由してメルカディアへと辿り着きました。
いつしか歴史は忘れ去られ、レイモスの名は神話となり、神話は語り継がれて信仰となったのでした。
しかしファイレクシアの毒気に当てられた難民達の多くが命を落とし、更にはメルカディアへと落ちてきた際、その衝撃によって一つの街を破壊してしまったのでした。命を救う使命を託された筈が、沢山の命を奪ってしまったという罪の意識に苦しんできたレイモスに、ジェラードはレイモスを信じる人々がいる事、レイモスが再び飛び立つのを待っている人々がいる事を伝えます。
そしてレイモスの遺物である幾つかのアーティファクトを受け取り、メルカディアへと戻ろうとしますが、一晩の野営を終えて目を覚ますと、それらは同行していたタカラと共に全て消え去っていたのでした。
メルカディア市では、スクイーが偶然にも逆さ山の内部へと通じる隠し通路を発見し、侵入します。その先で彼が見つけたものは、《旗艦プレデター》に似た沢山の戦艦、そして修理を施されたウェザーライト号でした。更にそこでカイレン・ゴブリン達に指示を与えていたのは、異次元ラースの支配者であり、ジェラードの宿敵ヴォルラス。彼はラースだけでなく、メルカディアの影の支配者でもあったのでした。スクイーはその場から逃げ出そうとしますが、あえなく見つかって捕らえられてしまいます。
一方、約束の時間になっても戻らないスクイーを探すハナとカーンの前にタカラが現れ、ジェラードは死んだと2人に伝えます。ハナは驚きますが、突然カーンがタカラを殴り飛ばしました。決して人を傷つけないという誓いを立てている筈の彼の行動に驚くハナ。ですが2人の目の前でタカラの姿が歪み、ヴォルラスへと変化してゆきます。彼はジェラードへの憎しみのあまり、多相の戦士としての変身能力を駆使してタカラに扮して行動を共にし、様々な妨害を行っていたのでした。ハナとカーンはメルカディア市警によって捕らえられ、地下格納庫へと連れて行かれます。
数日後、商隊に扮してメルカディア市へと戻ってきたジェラード達も、スクイーの痕跡を追って逆さ山内部へと侵入します。その先でヴォルラスが待ち構えていました。ジェラードは一騎打ちの末にヴォルラスを打ち負かすと、修理を終えていたウェザーライト号の砲撃によって格納庫の出口を破壊して脱出しました。
しかしヴォルラスは一騎打ちに破れながらも死んではおらず、ジェラードを追いかけるべく密かに別の飛翔艦へと乗り込んだのでした。
ジェラードとヴォルラスが戦っていた同時刻、メルカディア市では夜明けとともに一斉に反乱が蜂起しました。市の各所に潜んでいた反乱軍の兵士達、嵐に乗ってやって来たサプラーツォのマーフォーク達がカイレン・ゴブリンやカテラン組合の傭兵達に襲いかかります。
チョー=マノは《市長の塔》を目指し、オアリムも彼を追います。カイレン・ゴブリンの攻撃を難なく退けながら市長室へ辿り着くと、オアリムの機転にも助けられてメルカディア市の表の支配者である市長を倒します。
そして反乱軍は市内の各所で勝利を収めますが、いつしか暴走を始めて只の虐殺へと変わってしまっていました。チョー=マノは混乱した街の様子を市長の塔から見て、戦いを止めるよう呼びかけますが、事態を収拾することはできません。絶望を感じたその時、逆さ山の内部から二隻の飛翔艦が飛び出しました。それはウェザーライト号と、復讐心に燃えるヴォルラスが操縦する戦艦レクリーント号。頭上で繰り広げられる激しいドッグファイトに、人々は戦いを止めて空を見上げ、口々にレイモスの名を呼び、ひれ伏します。
ウェザーライト号の船上では、久しぶりながらも慣れた様子でクルー達が動き回り、生き生きと艦を操ります。狂ったように追いかけてくるレクリーント号を、ウェザーライト号はエンジンを切ってぎりぎりまで引き付け、スクイーが操る後部砲座から渾身の砲撃を浴びせると、レクリーント号は炎に包まれ、ヴォルラスと共に墜落したのでした。
しかし、続いて巨大な何かがウェザーライト号にゆっくりと迫りつつあるのが見えました。やがて姿を現したのは禍々しい金属のドラゴン。明らかにファイレクシア的なその姿、ですがそれはジェラードの言葉に応え、再び大空へと飛び立ったレイモスでした。
やがて、ウェザーライト号がドミナリアへと帰る日がやって来ました。
チョー=マノはオアリムにメルカディアに残って欲しい、自分と共に生きて欲しいと望みますが、ファイレクシアの侵略という危機がドミナリアへと迫っていること、ウェザーライト号にとってオアリムが必要不可欠な存在であることも理解していました。
いつまでも待っている。彼は笑顔でそう告げてウェザーライト号を見送ったのでした。
それから2年。ドミナリアでは、世界中を巻き込んだ戦いの末にファイレクシアの侵攻はどうにか退けられましたが、犠牲も多大なものでした。ウェザーライト号のクルーも例外ではなく、ジェラードを始めとして何人もが命を落としました。
ですが幸いにしてオアリムは生き延びます。戦没者慰霊祭の後、ウルザの「プレインズウォーカーの灯」を受け継いだカーンに連れられて、彼女はメルカディアへと旅立ったのでした。
無事再会を果たしたであろうチョー=マノとオアリムのその後については、残念ながら語られていません。
ですがひとつつだけ。そう遠くない未来のメルカディアには、2人にそっくりな娘の姿があるのでした。