マジック・ザ・ギャザリングがカードゲームである以上、避けては通れない問題がいくつもあります。そのひとつが単体としてみたカードの相対的な強弱です。
もちろん製作者の本音としては全てのカードを使ってもらいたいでしょう。しかし、現実は過酷なものです。
構築環境では《灰色熊》《丘巨人》の完全上位カードより逆に完全下位カードを見つけるほうが難しいですし、全力で放った《心魂破》よりも《消耗の儀式》の方がだいたいにおいて効率的です。同じコストだからといって《イラクサヅタ病》とX4の《不敬の命令》が等価値とは誰も考えないでしょう。
では弱いカードを片っ端から無くしていけばよいじゃないか?と思いませんか?
ところがこれもまた困ったものでカードの強さというのは、「これに比べて強い。あれと比べて弱い。」といった相対的なもので判断されるのです。
数年前なら強かったのに今となっては不遇だというのもタイムシフトしているあのカードやこのカードを見てもらえばおわかりのように、よくある話です。もしも、2/2より大きなクリーチャーがこの先作られないのだとしたら《丘巨人》の時代が来るかもしれないでしょう。ですがそんな極端な話があるわけもなく、結局のところ、環境全体の強さに左右はされるものの、その中で弱いカードも作られるし強いカードも作られ続けるといった事になるのです。
ところでシャドウムーアブロックのコンセプトは2色混成です。
この混成というのがまた曲者で、混成カードはそれぞれ元の色の属性をある程度まで引き受けていますが中には、時には片方の色の特性を色濃く引きずってしまっているカードもあるのです。
《損ない》などはその典型でしょう。
黒としては過去にあったかもしれないカードですが白としては制限なしの確定除去だなんて遠く太古にあった《剣を鍬に》以来です。そんな強力カードが登場することによって過去にあった白の同種、同系統のカード評価は段階的に弱くなっていく。さようなら《今わの際》。それもまたマジック。
それとは別に自ずから強弱の比較ができる場合もあります。例えばサイクルとして各色に同じようなコスト、能力を持っている『しもべ』。それぞれ全く別の能力を持ちますが5マナという共通点を持つ『亜神』などです。これらは各色に同胞が存在するのでどの色がアタリだとか、どの色がハズレであるとか比べてみるとはっきりと解ります。《復讐の亜神》と《遁走の恐君主》を比べれば勝ち組カラーと負け組カラーなんて明確に分かってしまうものなのです。
ですが、これに異議を唱える人もいます。世の中、強いカードだけが全てではない。俺はこの色が好きなんだと。
例えば、シミック(青緑)の王子を自称している清水直樹。彼なんかは、たとえ私の目には《神話の超者》が《永劫の年代史家》の下位バージョンにしか見えなくてもその溢れんばかりのシミック愛でなんとか《神話の超者》を使おうとするでしょう。ええ使う筈です。最後に合った時には泣きながら使うと言ってたので使わないわけがありません。(ですよね?)
こういう人には生暖かい眼差しで遠巻きからやっぱり弱いカードを使ってる様を観察するに限るのですが、もしかしたら愛ゆえにそこからセルやスクリブ&フォースを越えるスーパー青緑デッキを開発するかもしれません。
特定カラーに愛着を持って使い続ける。これもまたマジック。こういう楽しみ方もマジックのひとつの要素ではないでしょうか。
そんな私もシミック王子ほどではないですが気に入っている特定カラーがあるのです。
そのカラーコンビネーションのことを一言で表すなら『器用貧乏』あるいは『陰湿』でしょうか。
序盤から終盤まで全てにおいてそれなりのカードがあり、万事そつなくこなせる色なんですが、どれも一線級には劣るといった按配。それだけだとまともにぶつかれば何にも勝てないので持ち前の受けの広さを生かして相手の得意レンジから少しずらし、自分の土俵に引きずり込んで勝つ。
姑息といえば姑息。
卑怯といえば卑怯。
少年マンガだと間違いなく序盤で主人公に負けるようなタイプです。チェスボクシングとかやらせると強い色かも。
そんな色ですので展開によっては序盤の猛攻に支えきれずあっさり負けたり、超長期戦にもつれ込んで地力の差を見せ付けられたりと散々な時もあるのです。全くもって手が焼けます。
ですが、だからこそ、そんな使い勝手の悪さがあるからこそ、逆に持ち味を上手く引き出せた時の強さ、全方位に対応できる柔軟さには輝くものがあります。困難な分だけ使いこなせた時は嬉しい。たぶんそんなところが私は好きなのです。
今回紹介するカードはまさにそんな白黒というカラーコンビネーションの集大成ともいえるカードです。

5マナで4/4『飛行』。
かつては及第点ともいえた性能ですがカードセット全体のパワーが上がっている現在ではそれだけでは力不足です。
ところがそれに『絆魂』というキーワード能力が付くだけで全く別次元のカードパワーを持ったクリーチャーとなってしまいます。それを解りやすく理解してもらうために、こんな状況を用意してみました。
お互いがライフ20点同士で一方のプレイヤーが《薄暮の大霊》。もう一方のプレイヤーが《名誉の御身》をコントロールして殴り合っている場面を想定します。先攻は《薄暮の大霊》側に譲るとしてライフの推移を見てみましょう。
| ターン |
大霊 |
御身 |
| 大霊1 | 20 | 15 |
| 御身1 |
16 |
19 |
| 大霊2 | 16 | 14 |
| 御身2 |
12 |
18 |
| 大霊3 | 12 | 13 |
| 御身3 |
8 |
17 |
| 大霊4 | 8 | 12 |
| 御身4 |
4 |
16 |
| 大霊5 | 4 | 11 |
| 御身5 |
0 |
15 |
大霊側が5ターン目にライフが0になったのに対して御身側はライフを15も残しています。
そのカラクリの種こそ絆魂という能力なのです。ダメージを与えつつ同じ分だけのライフを得ることによって相手から見てダメージレースで逆転しようとするならば4点+4点回復分の合計で8点以上ダメージを毎ターン与え続けなければいけません。単純なパワータフネスでは他の武闘派アバター達に一段劣りますが、ライフレースをする上では断然優位なのです。まさに白黒という色の姑息さが全開といったところです。
ですがそんなことは大霊側からすれば百も承知。通常ならばこんなに都合良くダメージレースには持ち込ませません。
絆魂持ちのクリーチャーがどちらかの場にいる時のセオリーとしてその絆魂付きを如何にして攻撃させないか、つまりライフ獲得の機会を無くさせるかという場作りになります。ところが御身の第一の能力『飛行』がそれを許しません。回避能力によってブロッカー不在の状況を作り出し、『殴っても損。でも殴らなければもっと損』という状態に強制的に持ち込んでしまうのです。
そんな御身にはパワー4の飛行、絆魂付きという近親者がいます。
かつてオンスロートブロックに名誉の御身と全く同じ公式で環境に君臨していたクリーチャー、《賛美されし天使》です。3ターン目に変異でキャストされ、羽化することで8点差のダメージレースをする様はプレイヤーには絶対の安心感を、対戦相手には絶望感を与えたものでした。そういう意味では回避能力付き4点の絆魂の強さは既に裏打ちされているともいえます。そして環境的にあの頃から幾分スピードが上がったとはいえ4/4飛行に対する回答を持ったデッキは限られていることには変わりないのです。彼女の活躍譚を考えると贔屓目無しに白黒はシャドウムーアの地でアタリを引いた気がします。
では御身と天使をカードとして比べてみてどうでしょうか。
御身は天使が持っていた変異からの高速展開はありません。4ターン目から殴りにいける天使に対して御身は6ターン目から。これはかなり大きな差です。しかしかわりに得たものもあります。
ひとつは《恐怖》や《叫び大口》といった黒の単体除去が効かないといった点。
白単色でもプレイできるカードでありながら恐怖系のカードが効かないというのはこれまで実用性があるのはプロテクション黒という形でしかありませんでした。御身の黒色でもあるという特性はプロテクション黒ほどの汎用性はありませんが、それでもこのことがデメリットになりうる相手であるプロテクション白・黒の飛行クリーチャーが、新たに加わった《静月の騎兵》以外見当たらないことから考えて純粋にプラス要素といえます。
もうひとつはコストが5マナになったこと。確かに《賛美されし天使》は3、4ターン目というパターンがありましたが表でプレイするならば6マナ。通常でプレイするには少し重いカードでした。一方で御身は5マナ。いちど《神の怒り》で場をリセットしてからプレイするカードとしてはとても都合よく出来ています。更に都合が良いことに現スタンダードでは《神の怒り》の黒バージョン《滅び》まであるので白メイン、黒メインのデッキどちらでも4ターン目で場をリセット、5ターン目でプレイという動きが出来るのです。
そして最後になってしまいましたが御身に備わっている3つ目の能力。ライフが25を超えると+4/+4の修正を受けるというボーナスも見逃せません。《名誉の御身》は条件付きながら8/8飛行、絆魂付きにまでなるのです。
本気を出した御身と力と力の殴り合いに持ち込みたいなら8点に+回復分の8点分。実に16点以上の戦力が必要なのです。
一度8/8になった状態で攻撃できれば対戦相手からすると4/4に戻すのですら9点分のダメージを1ターンの間に与えなくてはいけません。立場が強くなったらより強く押しが利くだなんてますます白黒らしくてステキです。
それでは、実際に《名誉の御身》を活用するデッキを構築することは可能なのでしょうか?やはり、キーとなるのは、その能力にあるのではないかと考えます。
《名誉の御身》を出した次のターンまでにライフを25点にする方法ですが例えばこんな案はどうでしょう?
黒であり、白でもある御身ですが黒単色コントロールデッキのフィニッシャーとして使います。これだと御身を出した次のターンに適当な対象に《堕落》か《堕落の触手》を打ち込んで5、6点回復。
ノーダメージでゲームが推移していればいきなり8/8の状態で攻撃できます。
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Black Side
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夢を追わずに現実的な選択をするならば《恐怖》や《叫び大口》《名も無き転置》《炎渦竜巻》をはじめとする大抵の火力を耐え切れるというタフネス4というサイズに、対処しなければどんどんライフを回復されるというプレッシャーは《賛美されし天使》を例に出すまでも無く中盤戦以降に抜群の働きを見せる事を考え、黒では無く白い御身として、そして新たな《賛美されし天使》として古典的なコントロールのエースにするといった案はどうでしょうか。
今のスタンダード環境では多色が出る土地が溢れているので《損ない》《名誉の御身》といった大量の白マナを要求するマナベースでありながら《謎めいた命令》を打つのに必要な  を供給する事も可能なのです。
サイド後は《運命の大立者》や《静月の騎兵》を投入することによってビートダウン拠りの構成に変形することが出来ます。
  と3つのハイブリットが同居していますがイーブンタイド後のデッキ構成だとむしろこれが単色っぽいデッキでは普通の構成になると思います。それにしても単色にした方が2色よりも使える色の選択肢が多いかもしれないというのも何だか変な話ですね。
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White Side
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《名誉の御身》は《賛美されし天使》の所詮敵わないデッドコピーとして記憶されることになるかもしれません。また白黒という特性そのままにその悪い部分、器用貧乏でどっちつかずという印象のまま《復讐の亜神》や《薄暮の大霊》の影に埋もれてそのまま役目を終えるかもしれません。
ですが私の好きなカラーコンビネーション、白黒はそんなに往生際が良いヤツではないのです。
黒いデッキに、白いデッキに、コントロールデッキやビートダウンデッキに、
きっと自らが納まる場所を見つけて何食わぬ顔でトーナメントシーンに顔を見せる事になるでしょう。
そんな近い将来がとても楽しみです。
中村 修平(なかむら・しゅうへい)
プロツアーはもちろん、当然のようにほとんどのグランプリを転戦しているという国際派プロプレイヤー。
プロツアー決勝ラウンドに4回進出している強豪で、ことリミテッド戦となると日本人で最強という海外勢の評もある。2006年7月に発売したコールドスナップを使用したリミテッド環境における強さは特に圧巻で、ふたつのグランプリで連続優勝という快挙を果たしている。 HOME
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