オンスロートブロックはおなじみの《怒りの天使アクローマ》《包囲攻撃の司令官》をはじめ数々の強力なクリーチャーが作られたセットでしたが、《復讐の亜神》も起源を辿ればオンスロートの、文字通り『伝説』となったあるクリーチャーに行きつきます。

 サイズは6マナで6/5と、平凡とまでは言わないですが飛び抜けて強い、というレベルでもありません。実際に、彼は各色の同僚たちとくらべても、決して派手な方ではありませんでした。なにせ他の面々はマナコストより高いパワーにトランプル・再生付きだったり、タップするだけで3枚カードが引けたり、はたまた毎ターン、クリーチャーを破壊できたりしましたからね。

 しかし評価となると話は全く別問題です。

 当時のリミテッド戦第一人者で殿堂入りプレイヤーでもあるゲイリーワイズは彼のコラム、リミテッドレヴューでこの色における歴代ベストクリーチャーと評価し、構築戦でも同じく殿堂入りプレイヤーのダーウィンキャッスルが、オンスロートブロック構築で戦われたプロツアーヴェニスでトップ8入賞を果たしたドラゴンデッキのエースとして投入しています。

 更にスタンダードでも彼は活躍します。04年度世界選手権の初日最終戦、全勝対決となったアントワンルエルと藤田 剛史が使用したのは《煮えたぎる歌》から「彼」を高速召喚するデッキでした。またエクステンデットではPTコロンバスで当時無名の新星だったガディエルシュライファーが持ち込んだようにリアニメイトデッキの切り札として、そして最近では去年の世界選手権でギヨームワフォタパが持ち込んだドラゴンデッキにとレガシーでまで活躍を見せています。

 サイズ的にはこれといったアピールが無く、特殊能力も無い彼でしたが、同僚達にはない二つの大きな武器をもっていたのです。

 ひとつは飛行+速攻という能力の組み合わせ。

 召喚酔いが無いクリーチャーに回避能力というのは速攻+トランプルの《地壊し》を見るまでもなくダメージ効率という観点からみると最高のコンビです。

 その中でも飛行は、ブロックされた時はトランプルに劣るものの、ブロック自体を困難にし、複数ブロックによってうちとられにくいため、とても有効な組み合わせです。

 さらにもうひとつ。

 彼のホームグラウンドである赤には、火力呪文という優れた色の特性があったのです。火力で最後の一押しするも彼自身が最後の一押しも自在に動けるというのが大きな力となりうるのです。この2つの要素が絡み合い、相乗効果をもたらした結果1枚の『伝説の』クリーチャーが生まれたのです。

 そう彼とは《刃の翼ロリックス》です。

 ですが、ただ優れたカードというだけではクリーチャーカードの質が大幅に向上している現在のマジックにおいて十分条件でしかなくて、必要条件ではありません。過去にもそのような形で日の目を見ずに去っていったカード達というのは数多くいました。

 《刃の翼ロリックス》の直系の子孫である《刃の翼タロックス》もその一枚です。

 《刃の翼タロックス》《刃の翼ロリックス》の後継者として紹介され、限定構築でこそ赤単デッキのサイドボードに散見されましたが、スタンダードでは閑古鳥。それよりカードプールが広いフォーマットでは言わずもがな。偉大なるご先祖様に比べるとかわいそうなくらいの不出来なカードという評価のまま、この不肖の末裔はスタンダードから退場することとなってしまいそうです。

 では何故、ロリックスがこうまで各フォーマットで活躍し、タロックスは使われないのか?

 その答えとなるのがパワーとタフネスです。

 わずか3ターンで対戦相手を瀕死にまで追いやれる6という抜群のパワーと、ちょっとやそっとのブロッカーや火力呪文を寄せ付けない5という屈強なタフネス。この数字が、6マナという構築でつかうにはかなり重いカードにも関わらず確固たる地位を確立しています。

 マナコストが軽ければ軽いほど良いというのもそのカードがトーナメントレベルであるという事の要件のひとつ。しかし、それはあくまでカードの性能が確保されているという条件を満たしていることが前提です。わずか2マナの《火葬》一発で撃ち落されてしまう《刃の翼タロックス》には、とても1マナ軽いだけでは釣り合わないものがそこにあるのです。

 6/5というサイズに飛行+速攻、更に赤色であるという事に裏打ちされた脆弱なき攻撃性、これがロリックスというカードの本質です。

 さて、そんな前振りはここまでにしましょう。

 今回紹介するカードはその名前に『刃の翼』とは付いていませんし、種族もドラゴンではありません。けれども『伝説』の本質である億弱さを感じさせない攻撃性を間違いなく継承しているカード。それが《復讐の亜神》です。

 《刃の翼ロリックス》に比べて《復讐の亜神》のコストは1マナ軽い5マナ。

 ここまでは《刃の翼タロックス》と全く同じです。

 5/4というサイズは《刃の翼ロリックス》にくらべて、召喚コストを考えればまずまずの修正です。《刃の翼タロックス》より、ひとまわり大きいサイズです。しかし、実際にプレイしてみるとこのサイズの差はひとまわり以上に感じられます。例えば攻撃面で、5というパワーはロリックスと同じく4ターンで対戦相手を死に追いやります。プレイされたターンにはダメージが通ると考えれば対戦相手に残されたターンはわずかに3ターン。その3ターンの間に亜神を何とかしなければならないのです。これは《刃の翼タロックス》にはできない芸当です。

 そしてそれを阻むのは4というタフネス。前述した《火葬》をはじめとするほとんど火力呪文を凌いでしまいます。亜神に対しては複数のカードを使って処理するか、パワー4以上の飛行という限られたクリーチャーで対処するしかないのです。

 更に目を見張る点があります。それは、「あなたが復讐の亜神をプレイしたとき、あなたの墓地にある《復讐の亜神》という名前のカードを すべて場に戻す」という部分です。苦労して亜神を殺しても、亜神が2体になって、はたまた3体になってとその数を増やしながら再び襲い掛かってくる。さながら悪夢の連鎖です。これほどまでに噛み合っている能力というのも滅多に無いでしょう。対戦相手にとって亜神はただ殺しただけでは決して心休まる事のない存在なのです。亜神に限っていうと墓所の棺の閂はよっぽど緩いようですね。

 またこの能力は亜神をプレイした段階で誘発する点も見逃せません。例え打ち消されても墓地にある亜神は還ってくるのです。

 これだけでも十分なのに、新たな刃の翼には、さらに武器があります。

 復讐の亜神のマナコストはシャドウムーアのメインテーマのひとつであるハイブリットマナというコンセプトを受けて{B/R}{B/R}{B/R}{B/R}{B/R}

 ラブニカブロックで登場したハイブリッドマナというシステムはシャドウムーアのメインテーマとして大きく復活を遂げました。《復讐の亜神》は、プレイする為のコストをすべて色マナで要求するので《変わり谷》《ロノムの口》《占術の岩床》のような{1}をうみだす土地との共存が難しいというデメリットを内包しています。が、ハイブリッドマナというシステムは、それ以上のものを亜神にもたらしています。それは多色カードでありながら単色のデッキでも使えるという点です。

 亜神は確かに赤のクリーチャーとしての要素を多分に含んでいるのですが、それと同時に純然たる黒のクリーチャーでもあるのです。

 例えば黒単ビートダウンデッキデッキ、あるいは《滅び》を使用するようなコントロール色の強いデッキのフィニッシャーとして《黒き剣の継承者コーラシュ》と共に亜神は投入できるのです。また、亜神の欠点であるマナ拘束の強さを《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》によって薄める事ができるのも黒に許された利点です。これからは黒単色デッキからでも突然、巨大速攻クリーチャーが出現する時代となってしまうのかもしれません。

大型クリーチャーの天敵だったが…

 赤単色デッキにしてもハイブリットカードであるというメリットがあります。赤いクリーチャーでありながら《恐怖》のような類の除去を受けつけません。せっかく《炎の儀式》から高速召喚したのにたった1枚のカードで殺されるという《刃の翼ロリックス》《弧炎撒き》といった赤の巨大クリーチャーが共通して持っていた弱点を《復讐の亜神》はハイブリットにより回避する事ができるのです。

 《叫び大口》という強力な《恐怖》内蔵クリーチャーが幅を利かせているこのスタンダード環境で、この特性はとても心強いものとなるはずです。これからの赤デッキに対してはクリーチャー対策に安易に《恐怖》とはいかなくなってしまうかもしれません。

 また《不吉の月》といった特定の色を強化するカードに赤と黒、両方ともに適応できるというのもメリットです。{B/R}の強力なハイブリットカードは亜神以外にもシャドウムーアに多数あるのです。

 最後に、今までは《刃の翼ロリックス》の後継者という見方で《復讐の亜神》を解説していましたが、別の視点から《復讐の亜神》を考えるのも良いかもしれません。

 『あなたの墓地にある「復讐の亜神」という名前のカードを すべて場に戻す。』という部分をもっと積極的に活用して《生き埋め》のようなカードであらかじめ墓地に3体落として瞬殺コンボを目指すというアプローチです。

 《復讐の亜神》をプレイすると墓地にある《復讐の亜神》3体が場に甦って5×4の20点。必要なのは墓地に《復讐の亜神》が落ちていることと《復讐の亜神》をプレイするという点のみ。

 ただし《応じ返し》《送還》のような低コストで手札に返す呪文とは相性が良い一方で《戦慄の復活》のようなこの手のデッキに定番のリアニメイトカードでは亜神の能力は誘発しないので注意が必要です。

 《復讐の亜神》は間違いなく《刃の翼ロリックス》の本質である脆弱さを感じさせない攻撃性を受け継いだクリーチャーです。それだけでなくハイブリットという新たなコンセプトを得たことで、《刃の翼ロリックス》の後継者以上の可能性まであたえられたカードとなりました。

 どのような形のデッキになるにせよ、これからしばらくの間、トーナメント会場の空にはこの亜神どもが縦横無尽に暴れまわっていることでしょう。

 みなさん飛行対策はお忘れなく。


中村 修平(なかむら・しゅうへい)

 プロツアーはもちろん、当然のようにほとんどのグランプリを転戦しているという国際派プロプレイヤー。

 プロツアー決勝ラウンドに4回進出している強豪で、ことリミテッド戦となると日本人で最強という海外勢の評もある。2006年7月に発売したコールドスナップを使用したリミテッド環境における強さは特に圧巻で、ふたつのグランプリで連続優勝という快挙を果たしている。

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