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僕が見る構造―テンポへのガイド
by スコット・ジョーンズ
translated by Satoshi Kamio
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僕はArabian
NightsやAntiquitiesの頃からこのゲームをやっていたし、プロツアーでは何年間も世界の頂点と優劣を競ってきた。それから、マジックのウェブサイトで編集長やプロデューサーをやってきて、かれこれ7年になろうとしている。MindripperにBrainburst、magicthegathering.comもだ。そりゃもうたくさんのマジックの戦略記事を読んだ、と言っても差し支えないだろう。中でも特に優れたものは、僕が間違ってとらえていたり、あるいははじめから相手にもしていなかったようないろいろな視点へと目を向けさせてくれた。…にも関わらず、だ。僕がこれまでの数年を費やしてそれだけの量の記事を読んできたにも関わらず、ある巨大な領域が未だにほとんど足を踏み入れられずにいる。特にその重要性はゲームの根幹を成していると言ってもよく、それに比べたらごく基本的なところさえ調査の手が及んでいないように思える。カードアドバンテージの記事はもう無限に読んだんじゃないかという気にもなるのに、テンポについて十全に書かれたものはほとんどお目にかかったことがないんだ。
僕が常々理解に苦しんでいるのは、今まで読んだテンポについての記事はとても一貫した論旨があるようには感じられなかった点だ。テンポのある領域については丸ごと残っていて、まだその一部でさえ書かれているのを読んだ覚えがないし、また別な領域となると、書かれたものもあるにはあるが、なにひとつ納得が行かないという有り様だ。そうした点を踏まえて、この記事の執筆を通じて目指すのはテンポについての不朽の一編ではない。そうではなく、テンポというのがどのようなものかを詳しく見てみたり、それか、ざっとでいいから目を通してみようというだけのことだ。僕はこれまでに嫌というほどテンポについて誤解している人の例を見てきた。それは記事の中にもあったし、プレイ中の選択やデッキ構築の中にも見られた。だから、僕がテンポというものをどんな風に見てどう捉えているか、それをみんなに知ってもらおうと思う。僕が見つけた構造をみんなにも見てもらいながら明確にしていきたいのは、僕が最も重要と考えている(そして、最も調査の進んでいない)テンポに対する視点、つまり、計量化するということだ。中には、そんなことはとっくに知ってるよと思うような箇所もあるだろう。これはもう、ほとんど確実だ。でも、たいていの人は僕の説明する方法を見て、ああ、そんなやり方があったのか、と思うところが1つ2つはあるんじゃないか、とも考えている。それどころか、これまでは思いつきもしなかったような新しい概念の重要性に気づくことにもなるかもしれない。
ことによると、この記事がいったん広く認知されれば、誰もが大挙して押し寄せ、この極めて重要なエリアに同じ様に深く歯を食い込ませてくるかもしれない。ズヴィが最近唱えはじめたように(これはもう周知のことだろう)、テンポはおそらく現時点ではカードアドバンテージよりも重要だ。ここまでは僕も賛成だが、しかし言っておきたい、それもアドバンテージの獲得に役立てることができるだけの理解があってはじめて真理とすることができるんだ、ってね! こんな記事をどこかに書きたいと思ってもう7年目になるが、マジックの公式サイトの責任者となってしまうとなかなか機会も見つけられなかった。でも、どこかでこれを出す必要が僕にはあったんだ。こういうことを成し遂げるために、本当に欲しいだけの時間を取ることなんて出来はしないのだが、なんとかスケジュールに自分を刻み込んで書くように仕向ければ、今書くべきことに向けてうまいこと意識のアクセルを踏み込めるかもしれない。
じゃ、準備はいいかな?
テンポとは何か
簡単な問題だよね? でも答えをひねり出すのも同じように、というわけにはいかない。実際、「テンポ」という用語自体がマジックの文章ではいく通りもの異なった意味で用いられている。思うに、これこそが議論がこじれる理由の一部なんじゃないかと思う。同じ言葉を使いながらライター同士がまったく別のことを話していることもよくあるんだ。
この記事で僕がテンポと言ったら、場でのダメージレースのことを指している。それだけの意味にはもちろんとどまらないんだけど、一度ダメージレースの基礎の部分を押さえてしまえば、より複雑な視点からテンポを議論するためのツールを手にしたも同然だ。だから、とりあえず今は、対戦相手のライフを20から0に追い落とすレースに絞り込もう。この目的にあわせて、話を主にリミテッド戦に絞ることにする。シールドデッキやドラフトで目にするようなシナリオは例として用いるのに極めてわかりやすいし、リミテッドの方がクリーチャーでのダメージレースが一般的だからだ。僕はすごく基本的なところからはじめようと思う。そうすれば、何がどう動いているのかをちゃんと見て取ることができるから。そこからはじめて、手に入れたツールでほかの領域にも手を伸ばしていく。ただし、これまでのテンポをめぐる議論がどれだけ込み入ったものだったかを踏まえて、この記事ではできる限り明快に話を進めたい。そのことを頭に入れて、クリーチャーにせよ呪文にせよ、見て欲しい部分をわかりやすく説明できるものを使うことにする。フォーマットだとか環境だとか余計なことはいったん忘れよう。「いや、でも俺こいつが言ってるようなカードなんて使わないし」なんてところに足を取られないように。裏側にある原理を覚えてしまえば、ゲームがよりよいものになることは保証するよ。
配役
それでは、本日僕に救いの手を差し伸べてくれる人物たちの配役を紹介させてもらおう。

左から、熊、オーガ、巨人、巨大化、ショック
余計なものは取り除いて基礎に戻す、とは言ったよね? ここにあげたカード同士の相互作用は、リミテッドフォーマットを検証する際の基礎的な部分を形作る。だから、テンポやなんかを試してみるには最適だ。能力だとかそのほかの小難しいことは取り除いた方が(まあ、ひとまずね)、本質的な部分には焦点を当てやすい。だから、ここで僕が「熊」と言ったら、2マナ2/2クリーチャー(まあ、2/1でもいいんだけどね)のことを言っている。「オーガ」なら3マナ2/2、「巨人」なら4マナ3/3のやつのことだけを言っている。
基礎からはじめなくてはならない理由を聞くのはいい加減飽きたかい? 僕もさ。さあ、はじめるぞ!
時計の針は回っている
ここでテンポについて話す場合、お互いのプレイヤーが自らはその過程で死なないようにしながら、いかにして相手に20ダメージを与えるかの競争の話をしている。この競争を理解するための鍵は、自分がその中でどんなことをしているかを計量化する手段を見つけることにある。僕の場合、大きな突破口が開けたのはこのレースをビートという言葉で考え始めたときだ。
音楽や舞台がそうあるように、ビートというのは時間の一区切りだ。自分のターンでとるひとつひとつのアクションが1つのビートで、同じことは相手の方にも言える。ビートの威力が比較的拮抗しているなら、レースで頭ひとつ飛び抜けるための鍵は、相手よりも多くのビートを得る手段を見つけることにある。
ちょうど今ドラフトし終わったばかりのデッキを使って、友達とゲームしているとしよう。1ターン目は2人ともパスする。2ターン目にこちらは何かしらの熊をプレイし、相手の方は2ターン目をパスする。ここで1ビートを得たことになる。3ターン目に熊で殴って、さらにオーガを呼び出す。ここで2ビート先に進んでいるが、相手もここでオーガを呼び出す。結果、このターンは帳消しにされてしまうものの、まだ2ターン目の分で1ビート先にいる。
お分かりいただけたろうか? ごくちょっとしたことではあるけれど、これが決定的な差を生み出すんだってわかってほしい。テンポをビートで計量化できるということは、場の状態を、お互いのプレイヤーのテンポ競争における位置を、実際に数値を使って測りながら評価できるということだ。上の例だと、3ターン目にはあなたは相手より1ビート進んでいる。さらなるビートによって優位を高めれば、自分のポジションはさらによくなり、相手の側は受け止めるのがさらに困難になる。
つまり、ここまでの鍵となる部分は、テンポというのは位置づけを数値に換算して測ることができるものだということ、どっちがどれだけビートを進めているかを測定できるものだということだ。このことを頭に入れた上で、この点もっとはっきりさせてくれる例を見てみよう。オーガデッキと灰色熊デッキが戦ったらどうなるだろうか?
わかりやすくするために、こういうデッキだというのを言っておこう。
問題からあらゆるランダム性を廃するために、お互いのプレイヤーが自分のデッキを全部手札に持った状態からはじめることにしよう。手札制限枚数に合わせて手札を捨てる必要もなしだ。
どうなるだろうか?
もし、あなたの返答が「どっちが先攻なの? 」だったら、あなたは正しい道筋を歩んでいることになる。グリズリー・ベアーズ側の先攻ではじめてみよう。ちょっと時間を置いてこのゲームがどういう展開になるかを考えて、もう十分だと思ったらここをクリックしてもらいたい。
すべてのビートは平等にあらず
上の例はどちらのカードも機能的にまったく同じなのだからわかりやすい。唯一の重要な差違は、例に挙げた《灰色熊》デッキと《灰色オーガ》デッキとでは一方の召喚コストが2マナなのに対し、もう一方が3マナという点だ。一度場に出てしまえば同じ機能しか持たない以上、ビートはまったく同質だ。しかし、通常、カードはまったく同じではない。
ビートはある程度は主観的なものだ。なぜなら、ゲームの進行にしたがって、何をもって1ビートと見做すかは変化するからだ。2ターン目に熊をプレイするのは完璧な良質なビートだ。ところが、ほかに何もせずに5ターン目に同じことをするのは明らかに水準を下回る。この秘密は、ビートはゲームの状態に応じて評価されなおさなければならないところにある。2マナ2/2は優れているが、もし相手が1ターン目に《今田家の猟犬、勇丸》を呼んでいるなら、あなたはそこで相手に追いついたに過ぎない。5ターン目あたりで盤面に4/4や5/5といった連中があふれ出すようなら、初期に得られたビートの重みを割り引いて考えなくてはならない。この点にはまたちょっとしたら立ち戻ってくるけど、ここで心にとどめておいてほしい重要な点がある。ビートは主観的なものではあるけれど、お互いのプレイヤーがダメージレースでどの位置にいるかを感覚的に掴む上では、なおも有効だということだ。ただ、いつも先ほどの《灰色熊》対《灰色オーガ》のようにわかりやすくはないというだけのことだ。
テンポアドバンテージを得る
テンポはリミテッドにおいてはカードアドバンテージによく似た働きをする。アドバンテージを得れば得るほど、そのアドバンテージを勝利に結びつけることが簡単になる。相手より多くのカードを引くことは勝利を約束はしないが、ただ、勝利を得やすくしてくれることは確かだ。同じことはテンポについても言える。つまり、特にリミテッドを念頭に置いて言えば、鍵は相手を上回るビートを生み出す方法を理解することにある。この概念を明確にする助けになるいくつかの簡単な例を挙げよう。
マナ効率に優れた攻撃クリーチャー
これはオーガ対熊の対戦を繰り返すに尽きる。相手の脅威よりもコストが低いにも関わらず、実質等しい影響力を持つ脅威を生み出すことができるなら、ビートを叩き出すチャンスを手にしていることになる。おおよそ2ターン目に相手が何もしないうちに化け物を呼び出したり、1ターンに2回呪文を唱えたりするのと同じくらい簡単な理屈だろう。
マナを喰わないトリック
だいたいのドラフトフォーマットでは、テンポを得るまでの道のりは、下の例のような流れに沿って進むだろう。
先攻をとって、2ターン目に何か熊を呼ぶ。相手は何もしない。(+1ビート)
3ターン目に、熊で殴ってオーガを呼ぶ。相手もオーガを出す。(+1ビートのまま)
4ターン目に、クリーチャー2体で殴って1体はブロックされる。そこでこっちは《巨大化》のようなマナを喰わないトリックを使って相手のクリーチャーを葬るとともに、自分のを生き残らせる。通ったクリーチャーはダメージを与え、相手のライフは16になる。こちらは残ったマナでもう1体熊かオーガを呼ぶ。
この時点で1体しかクリーチャーを呼べないなら、相手はさらに1ビートを失うことになる。今、相手はすでに20%死にかけていて、こっちは場に3体のクリーチャーを出しているのに対し、相手の側は1体しかいない。こうなってしまうと、後れを取りすぎたがゆえに相手はブロックせざるを得ず、こちらの手札のトリックはさらに有効になる。同じ様に展開が進むなら、そのうち数を頼みに押し寄せるだけで、勝手に相手をぶちのめして勝ってしまうだろう。注意すべきは、※2対1交換やその他のカードアドバンテージはどこでも取っていないという点だ。より効率的にカードをプレイして機能させる手段を見つけたというだけで、それが最終的に相手よりもたくさん場にカードを並べることに繋がった。きちんと意識し手さえいれば、このシナリオはほとんどのリミテッドフォーマットで簡単に再現できる。《巨大化》みたいなカードは、《ショック》のようなカードよりはずっと簡単に手に入るからだ。
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※編註 『2対1交換』
こちらがたった1枚のカードを使うことによって、対戦相手のカード2枚分と交換すること。カードアドバンテージという概念をよくあらわしたもののひとつ。
たとえば、こちらの4/4クリーチャーが攻撃して、対戦相手が2体の2/2クリーチャーでのブロックを選択し、相討ちとなる。こちらの損失はカード1枚で、あちらは2枚分。これが端的な2対1交換の例だ。
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軽い除去
上のシナリオはごく一般的なもの(《巨大化》のようなコンバットトリックの使用)だが、《ショック》のような軽い除去を使うとなおよい。選択の余地があるなら、ほぼ必ず除去の方が(ブロック要因を除去するのにトリックを使うのに比べて)優れている。相手のクリーチャーはブロックさえできず、さらなるダメージを通すことができるからだ。しかし、ここでビートの話になる。除去は同じターンに何かほかのことができないなら、テンポアドバンテージを得るだけで終わってしまうのだ。もし4マナ使って相手の4マナクリーチャーを殺すだけなら、現在のテンポの状態を守っただけで、先に進められてはいない。《ショック》のようなカードが攻撃的なリミテッドフォーマットで極めて高い点数をつけられていながら、もっとマナを喰う除去呪文が「より強い」としても、ピックが後回しにされる主な理由がこれだ。だって、ビートを上乗せできれば、そのたびに対戦相手の立ち位置をどんどん後ろに追いやれるんだから!
バウンス
以上を頭に入れて、ここで多めに時間を割いてバウンス呪文について話をしよう(《ブーメラン》、《送還》など)。「テンポ」というのは単にダメージレースのために手札のカードを消費することだという理解がそこらで広まっている。それは確かに1つの側面ではあるけれど、ビートとしての数には入らない。多くの人々が一般的にバウンスを「テンポカード」と見做している理由もそれだ。バウンスがテンポに持つ影響力は完全にビートに依存しているっていうのに!
ちょっと例を挙げよう。自分が先攻で、2人とも2ターン目に熊を呼んでいるとする。3ターン目にこちらは2マナを使って相手のクリーチャーを《ブーメラン》し、自分ので殴って2ダメージを与える。相手は3ターン目に熊を呼び戻す。
《ブーメラン》はテンポカードだったろうか?
これはまたしても、「テンポ」という言葉をどういう意味に使うかによる。確かに、クリーチャーを相打ちさせていたら通らなかった2ダメージを通してはいるが、相手はクリーチャーを呼びなおせるのだからビートは等しくなってしまう。つまり、バウンス呪文はビートのアドバンテージは一切与えてくれないのだ。基本的に盤面上では両者ともに同じ発展度合いだからだ。しかし、もしそこで使ったのが《送還》だったなら、残った2マナを使って熊も出すことができ、そうなればこのターンで1ビート先行したことになる。
鍵はここにある。バウンスはテンポ戦略と見做されがちだが、それがテンポアドバンテージとなるのは、ビートをもたらしてくれたときだけなのだ! バウンスがテンポと結びつけて考えられるのはテンポ獲得戦略と組み合わせてうまく機能するからであり、その過程でビートを得ない限り、使われたバウンスは単に、既に築き上げたテンポアドバンテージを守るだけに終わってしまう場合が多いだろう。こういう場合を考えてみよう。
| ターン |
自分 |
相手 |
結果 |
| 1 |
|
|
|
| 2 |
熊 |
2枚目の土地だけ |
+1ビート |
| 3 |
熊 |
オーガ(《ショック》を撃った) |
+1ビート(計2ビート) |
| 4 |
巨人 |
巨人 |
|
この時点でこちらはすでに2ビート先を行っており、相手はライフレースでも後れを取っている。しかし、相手の巨人は脅威だ。熊2匹で築き上げたビートのアドバンテージを萎縮させてしまう。そこで5ターン目をまるまる相手の巨人をバウンスするのに使ってしまったら(《撤廃》みたいな呪文で)、自分のビートを先に進められない。相手が巨人を呼びなおしてしまえば、2人ともそのターン1ビートプレイしたことになるからだ。しかし、巨人をバウンスすることによって、すでに2ビート先行したゲームの状態を保存することができる。
実際、相手のターンになるまでは、こちらは実質3ビート先行している。ここでは手短に言えば実質2つのことが進行しているが、ひとまずはこの例で、バウンス効果のようなカードがテンポとどう相互作用するかを見てもらいたい。鍵はビートを計量化する手順を忘れないことだ。場合によっては、バウンスは相手よりもビートを先に進めさせてくれるし、また違う場合もある。この差はしかし決定的だ。いろんなプレイヤーが盲目的に《撤廃》やその他似たようなカードをデッキに投入するのを話に聞いたり(あるいは読んだり)したことがあるだろう。「テンポデッキ」を作ろうとしてだ。しかし、こうしたカードはデッキの残りの部分とうまく機能してゲームの流れを通じてさらなるビートを生み出せなければ、バウンスそれ自体はデッキを加速することはできないし、むしろ減速させてしまうことさえある。
ちょっと走り書きとして、これまでに書かれたテンポに関する記事の中でも最も重要なもののひとつを紹介しておこう。IPAの頃、edt(ときとして単に「Eric
Taylor」の名で知られる)は偉大な記事をサイドボードに寄稿した。題はテンポの支配。その中で彼は、ある脅威を取り除くのにどれだけのマナを使ったかとその脅威がどれだけのコストがかかっているかの等質性を主な主題に取り上げている。これは偉大な記事で、マナこそが等質性の中心にある決定素なのだが、しかし、ここでedtはビートの概念を見落としているように思える。
彼は熊(2マナかかる)に染め上げられたフォーマットで《排撃》(3マナかかる)のようなカードに頼るのは望ましくない点を明らかにした。「2マナしかかからないものを破壊するのに3マナ払うのは、テンポの損失を招くだけだ」ということだ。確かにそれは重要な点なのだが、それは時間の一断面をしか見てはいない。ビートを計算に入れると、ここでは単に場が均衡しているのではないことがわかる。3ターン目に3マナタップして《ウルザの激怒》で熊を焼くのと、2マナを《終止》に使ったが残った3マナ目を使わなかった場合とでは、基本的に同じことだ。1ビートと1ビートを相殺しただけで、テンポレースを同じ速度に保ったに過ぎない。しかし、《終止》で相手のクリーチャーを焼いて残った1マナで《ショック》か何かを使い、もう1体熊を焼いたり、戦闘中の《巨大化》で相手のクリーチャーを除去しつつ自分のクリーチャーを生き残らせれば、ここで+1のビートアドバンテージを生じさせたことになる。これが真に重要な点だ。edtが語ったのはその1つの側面で、それも重要な側面だ。少ないマナでより多いマナを無効化すること。最初にそこから扉は開かれたのだが、このドアが意味を持つのは残したマナをビートの獲得に使ったときだけだということは強調しておきたい。
テンポとカードアドバンテージ
テンポとカードアドバンテージは相反するものだという前提はいたるところで見られる。追加のカードを引き増しする(その過程でテンポを失う)か、ダメージレースのためにリソースをすべて投げ打って、その過程でカードを片っ端から失っていくかの二択というわけだ。重要なことなので忘れないで欲しいが、テンポに対する理解が洗練されていくにつれて、この2点は1つの論理に総合されていく。マジックは本当に複雑に入り組んだゲームで語るのは(書くのも)とても難しい、だからみんな省略をよく使う。テンポとカードアドバンテージは確かに競合することの多い戦略だが、常にそうというわけではない。最も一般的な形でこの一致が見られるのは、手札ではなく場で2対1の交換を行うときだ。例えば、《精神腐敗》のようなカードは3ターン目に1枚分のカードアドバンテージを生み出す。自分は1枚しかカードを使わずに、相手は2枚を失うからだ。しかし、その代わり場を構築するための1ターンをスキップしてしまうし、止めることができるのは場ではなく手札のカードだ。これはカードアドバンテージを得るためにテンポの構築を犠牲にしていることになる。4ターン目に《思考訓練》でカードを2枚引くのも同様だ。
しかし、これが場から複数のカードを除去するということになると、テンポとカードアドバンテージは一致しはじめる。例えば、相手がタフネス1のクリーチャーを3体、最初の2、3ターンで並べ、その間自分は何もしなかったとする。ここで3ターン目に《疫病吐き》をプレイする。相手のクリーチャーはすべて死に、この時点で場の唯一のクリーチャーはこちらのものだから、1ビート前に割り込むことができる。その上、3対1のカードアドバンテージもおまけに獲得している。ラヴニカブロックのリミテッドでは、《剣士の魔法印》のようなオーラをエンチャントされたクリーチャーを除去することでテンポとカードアドバンテージを獲得しているのがよく見られる。例えば、2人とも2ターン目にクリーチャーを呼んだとする。こちらは3ターン目にもクリーチャーを呼び、相手は3ターン目にもう1体クリーチャーを呼ぶ代わりに自分のクリーチャーに魔法印をつける。4ターン目に《破壊の宴》を相手の唯一のクリーチャーに使えば、2対1のカードアドバンテージを引き出すとともに、2ビート先に進んだことになる。こちらが2体のクリーチャーを抱えているのに対し、相手の場は空っぽなのだ。(ただし、注意。まだ相手のターンが残っている。)
最後に、リミテッドでカードアドバンテージを得ながらビートも得る一般的な方法としてもう1つ、自分のファッティを複数ブロックさせて、コンバットトリックで優位を得るという手段がある。《棘茨の精霊》を突撃させて2体の熊にブロックされたところで《かき集める勇気》を使えばカードアドバンテージを得ることができる。相手は2体のクリーチャーを失うのに、自分は《かき集める勇気》1枚で済むからだ。さらに、こうした軽いコンバットトリックなら、さらにクリーチャーを呼ぶなり残ったクリーチャーに除去を使うなり、追加のビートを叩き込むのに十分なマナが残る。ここでは多大なシナジーが形成されている。理由は簡単、こちらのデッキがテンポアドバンテージを得るほど、相手はライフを守るためのブロックを優先して考えなければならないからだ。これは、次に触れる問題にも絡んでいる。
イニシアティブ
ここまでで、僕らはテンポをビートで計量化できるようになった。1ターンに行うアクションの数を目安にするんだ。何をもってビートとするかはゲームの進展に合わせていくらでも変わる(ターンが進めば、同じ1ターンもより過激になっていくからだ)し、ゲームの状態にもよる。しかし、1ビートの基本的な理念は「ゲーム中の各ターンにおける平均的なレベルの動き」だ。ビートアドバンテージの獲得と維持は相手より多くの行動を1ターンに行うことで発生し、その過程でカードアドバンテージへも繋がって行く。ほかにも、相手のビートを複数打ち消すような手の進め方もビートの獲得に利用できる。《巨大化》を使って2体のクリーチャーを除去できれば、2ビートをたったの1マナで帳消しにしたことになる。だが、こうしたテンポを勝利へと変換するにはどうしたらいいだろうか?
そのためには、今から導入するチェスの概念を理解してもらう必要がある。イニシアティブというものだ。
イニシアティブとはゲームのペースを支配しているプレイヤーを指す。チェスにせよマジックにせよ場が完全に膠着していることはあまりなく、片方のプレイヤーが攻撃側で、もう片方を追い詰めていくものだ。イニシアティブのあるプレイヤーにはテンポのアドバンテージがあり、対戦相手の側はこのアドバンテージに対し受身にならざるを得ない。ここまでのテンポの話と同様、またダメージレースに焦点を戻そう。
ここまででちゃんと触れてなかったことがまだ残っている。半ターンと言って、これもやっぱりチェスの概念だ。チェスでは先攻のプレイヤーは一般に、展開の上で「半ターン」のアドバンテージを持っていると言われる。相手よりも先に動けるからで、事情はマジックでも同じだ。ただ、ここで正確にはどこからどこまでが半ターンになるのかなんてことにかかずらう気はない。わかりやすい方がいいから、簡単に言ってしまおう。先攻を取れば、その時点ですでにアドバンテージを取っているのだ。とはいえ、これはまだアドバンテージの最初の一歩に過ぎない。もし自分のデッキがこのアドバンテージを育てて行くことができず、むしろ相手のデッキがアドバンテージを狙ってくるなら、最終的に相手の方にイニシアティブが移ってしまうだろう。それでも、先攻を取るというのはそれだけでアドバンテージとなる。その上さらに圧力をかけられればこのアドバンテージは磐石のものとなっていくし、逆にテンポで後れを取ったとしても、先手という優位が多少は問題をやわらげてくれるだろう。
たとえば、後攻1ターン目の《今田家の猟犬、勇丸》と先攻2ターン目の《灰色熊》は、デッキ全体が似たようなつくりをしているなら印象的には大差はない。半ターンという考え方が重要になるのは、プレイヤーにターンが移るごとにビートを計測することでお互いの場がどのように動いているかを調べられるようになるからだ。実際の場は、一方のターンが終わるごとに動いているのだから。半ターンごとに数字を区切るなら、バウンスしたのが次のターンでまた戻ってくるとしても、それまでは場に存在しないし、こちらの攻撃に対しなすすべもないのだ。
なぜイニシアティブが問題となるのか? イニシアティブを握っているなら、自分からダメージレースを仕掛けられるからだ。1つには、こちらのターンに相手がブロックせざるを得ない状況を作りやすいという利点がある。自分のターンに戦闘を発生させられるというのは、リミテッドではアドバンテージへの第一歩となる。戦闘中にマナ(あるいは、相手より多いマナ)を立てていやすいからだ。それはつまり、自分の方がコンバットトリックを有効に使って戦闘を操れることを意味する。差が開けば開くほど、相手をさらなる苦境へ、さらなる泥沼へと追い詰められる。
いったん遥か遠くまで引き離してしまえば、小さすぎて場の進展度合いには見合わないクリーチャーでも殴りに行かせられるようになる。相手はもっと大きいのをブロックしないと生き延びられない状態に追い詰められているからだ。このような場であれば、小粒なクリーチャーではゲームの進行度に釣り合わない段階になっていても、依然としてその小物がビート要員としての価値を保つことができる。イニシアティブなしにはこうした優位は崩れ去っていることだろう。テンポプレイヤーにとっては極めて重要な示唆がここには含まれている。何にもしないなら、マジックにはあらかじめ防御側有利になるよう平衡装置が埋め込まれているのだ。防御側は好きにブロックを選べるのだから。だが、ライフが減るにつれて、相手は大きいクリーチャーでこちらの小さいのをブロックする選択肢も減っていく。こちらの大型クリーチャーが相手に止めを刺しにかかっているからだ。テンポアドバンテージを稼げば稼ぐほどこの原理は強く働き、相手にとって都合のいいブロックで効率的に身を守ることを不可能にさせる。
テンポアドバンテージとテンポの維持
これでイニシアティブと半ターンという捉え方ができるようになったから、最初は大雑把にしか話せなかった部分に戻ろう。まずはおさらいだ。テンポの話をするプレイヤーによく見られる誤解の筆頭は、テンポの維持をテンポアドバンテージとごっちゃにしてしまうことだ。自分のターンを丸ごと使って相手のターンを無効化したとするだろう、でもそれはテンポの獲得じゃないんだよ!
(確かに、テンポに基盤を置いた戦略ではある。でも、決してテンポを得てはいない。)相手が2ターン目に熊を呼んできたところに返しの2ターン目で《ブーメラン》したら、テンポ状況は基本的に、返しで熊を呼んだ場合と同じだ。どちらの場合でも、テンポという言葉で捉える分にはターンの内容は変わらない。違いはテンポアドバンテージとテンポの維持にある。
簡単な例を挙げよう。2ターン目に熊、向こうも熊。そこで《大クラゲ》を呼んで相手のを戻す。相手は1体クリーチャーを出す(さっき戻したのかもしれないし、別の3マナのかもしれない)。この場合、《大クラゲ》が相手の脅威を取り除きつつ自分の場に加わったことで、1ビートの獲得になる。3ターン目が往復した時点で、こちらはテンポアドバンテージを得ていることになる。1ビート先にいるからだ。
ではテンポの維持はというと、これは違ったストーリーになる。たとえば自分の場に3体並んでいて相手の方は1体と差が開いているとしよう。ここで1ターン使って相手のをバウンスして場を片づけても、ターンが往復してみるとテンポの獲得にはなっていない。相手は戻されたクリーチャーをまた自分のターンに呼び直してしまうからだ。しかし、すでにこちらは2ビート勝っているのだから、その状態をそのままに保てるなら、その場では悪くない選択だ。この2ビート分のアドバンテージを長く保持できれば、それだけ相手のライフは減って場を停滞させるのが難しくなる(思い出してもらいたい。ある時点でテンポアドバンテージは相手を後ろのめりにさせて分の悪いブロックを強制できるんだ。)この場合、テンポ維持カードを早期に得たテンポアドバンテージを保持するために使っていることになる。こういうわけで《撤廃》のようなカードはそれ自身テンポを生み出しはしないにも関わらず「テンポカード」と見做されることがよくある。しかし、実際こうしたカードはすでにテンポアドバンテージを得ているゲームの状態を維持してテンポ戦略を脇から支えているカードなのだ。
早いビートと待つビート
だが、ここがまさに最初の方では詳しく触れることのできなかった部分なのだ。これはまだ十分とは言えない。この等式にはまだ1つ、決定的な要素が欠けている。それはブロック要員を除去するのは新しく攻撃要員を呼ぶのとは違うということだ。なぜそうなってしまうのか?
簡単に言えば、「攻撃は待つが、ブロックはすぐ」だからだ。これは極めて重要なことなので、最初の方ですでに出ているが、ここでもう一度取り上げたい。
ブロッククリーチャーを除去するのと攻撃クリーチャーを増やすのは違う。
バウンスがよくテンポと関連付けられるもうひとつの理由がこれだ。もしもふたりがビートの均衡を保ちながらクリーチャーの相打ちを続けていたら、相手にはダメージがまったく入らない。ところが、何らかの方法で相手のクリーチャーを除去しているなら、自分の側を増員する場合と違ってこちらのダメージは通りはじめる。ここは極めて重要なステップになる。実際に与えられるダメージがビートの概念に食い込み始めるからだ。簡単な例を2つ見てみよう。
| ターン |
自分 |
相手 |
結果 |
| 1 |
|
|
|
| 2 |
熊 |
熊 |
|
| 3 |
オーガ |
オーガ |
(熊が相打ち) |
| 4 |
巨人 |
巨人 |
(オーガが相打ち) |
このゲームでは、ビートという言葉で見たらまったく等しい。結局、5ターン目はお互いが20ライフあって巨人を場に出している状態になる。次に、ビートが均衡しているゲームをもう一例見てみよう。
さっきのと一緒で、ここでもお互いのビートは均衡している。実際、4ターン目の終わりにはどちらの場にも土地しかない。でもここには決定的な違いがある――相手に4点もダメージが入っているんだ!
何が違ったのだろうか?ブロッククリーチャーを除去するのと攻撃クリーチャーを増やすのは違う どちらのプレイヤーも同じ速さでビートを展開している。だが、先攻プレイヤーにはイニシアティブがあるのだ。確かに、同じ速さでビートが展開されているとは言った。しかし、それは往復で1ターンとして見た場合だ。相手に追ってくる暇を与えてお互いのターンが終わってからポジションを確かめてみれば、ビートは等しくなる。しかし、実際にはマジックはそんな風には動いてはいない。最初に先攻を取った方が、半ターンのアドバンテージを手にしている。要するに、先に殴りに行けるってことだ。だから、相手のクリーチャーを除去すれば、自分のクリーチャーは殴ってさらにダメージを与えに行ける。ここからは、テンポアドバンテージで勝とうとするなら、相打ちはなるべく避けた方がいい、という結論がひとつ引き出せる。回避なり除去なり、何らかの手段で攻撃を通しながらビートを稼ぐのが得策と言える。そうすれば、手を相手よりも先に進められるだけでなく、同時にダメージもたくさん叩き込むことができる。
ここまで来て、edtのシステムではテンポを失うとされていた、3マナの《破滅の印章》で2マナの熊をどける先ほどのシナリオを思い出してみよう。ビートがどのような仕組みになっているかを理解できるようになった今なら、事実は異なっていることが理解できるだろう。別に僕はedtを叩き潰したいわけではない。それどころか、このような偉大な記事を元にして、さらに理論を発展させられることに感謝さえしている。その上で、この記事はこれまでに書かれたテンポに関する記事が、実際のマジックのゲーム展開をあまり正確に反映していなかったことを示す好例なのだ。この記事がその状況を打破してくれればと、切に願う。
見せ掛けのテンポ
これでもう、ビートのアドバンテージを得ることがゲームにどう作用するかは掴めただろう。それでは、ここまででわかったことを元に一段進んだ視点からテンポを見てみよう。これから話す概念のことを、僕は「見せ掛けのテンポ」と名づけている。これを把握しているかいないかではぜんぜん話が違ってくる。テンポは何もないところにぽつんと浮かんでいるわけではない。複雑な混合物のひとつの成分として存在する。同様に、ここでカードの質が等しいという場合、現在のゲームの状態に照らし合わせて等しいという意味で使う。ちょっと、こんなシナリオを見てみよう。相手が熊、こっちは何もなし。相手オーガ、自分オーガ、相手オーガ、自分2/4。

相手先攻で4ターン目が往復したところだ。このシナリオのテンポ状態はどうなっているだろう?
実際にはビートでは負けている(クリーチャー2体に対し、向こうは3)にもかかわらず、テンポでは後れを取っていない。何のおかげだろうか? そこがまさに核心なんだ!
確かにビートでは遅れている。しかしテンポはビートそのものじゃなく、テンポはダメージレースを測るものなんだ。場の状態から言って、2/4は場を膠着させるのに十分だ――そして、場が膠着していけばビートの重要性は次第に下がっていく。同じ様に考えてみよう。1/1が何体集まれば、1体の2/2を数で押し潰せる?
しかしだ、場が膠着したとは言え、1ビート後れを取っていることに変わりはない。それが何を意味するのかは、さらに極端な例で確かめてみよう。今度は3ターン目もただエンドして、4ターン目の《歩兵部隊》まで何もしない。4ターン目が往復した時点での場はこうだ。

この状況では2ビート後れを取っている。今のところ場は膠着しているが、2ビート遅れているということになんら変わりはない。単に、せっかくのテンポアドバンテージにも関わらず相手はこちらを追い詰めるのが難しいというだけのことで、それはこちらが場を膠着させているからだ。こうして見せ掛けのテンポは手に入る。場で2ビート下回っていても、こちらのプレイした2/4の《歩兵部隊》が相手の場のビートに対する切り札となっているのだ。
だが、ここで「見せ掛けの」という言葉が効いてくる。実際にはビートは互角ではないのだ。互角と思っていられるのも、2/4が場にいる間だけだろう。もし相手が何かしてきてこのブロッククリーチャーが葬られるなり、何かしらの形で除去されてしまえば、すぐにもこのビートの損失を痛感することだろう。この教訓は重要だ。これこそ、マジックで適切な攻撃と防御をプレイする上でのちょうど中心点になる。
見せ掛けのテンポはテンポアドバンテージを打ち消すわけではない。カードがそれを演出している間だけ見せ掛けのテンポは場にとどまる。
ということは、自分のコントロールデッキが見せ掛けのテンポに依存する度合いが高まるほど、見せ掛けのテンポカードを場に残すことが重要になるということだ!
特にリミテッドについて話を進めれば、攻撃的なテンポデッキは見せ掛けのテンポを念頭に置いてドラフトしなくてはならないということになる。自分のテンポアドバンテージを帳消しにしてくる防御カードへの切り札を用意するためだ。やり方は環境次第が、最高級のドラフトプレイヤーはどういった防御カードが脅威となり悩みの種になりやすいか、この種の悩みに対処するカードとして何が望み得るかを熟知している。
この流れの上に《妨害の公使》のような「タッパー」が位置づけられる。ゲームが進展すればビートの水準は概して高まる。タッパーの有効性は、場に出ている最適な対象へと好きに対象を変更できる点にある。つまり、3ターン目の妨害の公使はその時点では3マナのビートであり、以降硬直が解けると相手のクリーチャーのうち一番いいものを無効化していくのだ。しかし、この種のカードの優れた点は対象が固定されていない点にある。もっといい対象が出てくれば、タッパーはすぐにその場で一番いい方へと対象を変更できるのだ。
もう少し詳しく見てみよう。《公使》はたった3マナのビートでありながら、常に最も脅威となるクリーチャーを選んで無効化できる。《公使》に投資したよりも遥かにコストの高いクリーチャーであってもだ。さらには、防御的に使い続けた上に都合のいいタイミングで恐るべき「2体タップ」に切り替えることもできる。相手のターンエンドにタップで寝かせてから自分のターンで別のをもう一度寝かせれば、相手の守りはがら空きになる。直感的にはなかなか理解しづらいかもしれないが、タップクリーチャーはテンポに重点を置いたデッキでは活躍の場はいくらでもあるのだ。これまで必ずしもそうでなかったのは、その起動型能力(たいてい1マナかかった)が自分の場の展開を遅らせてしまった(マナ配分を間違えたときなんかは特に)からだ。それと比べてみれば、《妨害の公使》がどれほど強力なカードかわかるだろう。最初の投資だけでそれ以降はいっさいマナがかからないのだ。
最後に、これまでカードの質とビートとの関わりあい方について話してきたから、あまり紙幅を割けなかったことにも触れておきたい。プレイする環境によっては、素の能力的に、次のターンに殴りに行ける上に、それまでの間相手の攻撃を防ぐこともできるクリーチャーのクラスがある。すぐに思い浮かぶ好例は、僕がラヴニカドラフトで3ターン目に安定して出せるだけの緑マナが入ったデッキで愛用してきた《ゴルガリの茶鱗》だ。だって、《茶鱗》より前に出たクリーチャーのほとんどは《茶鱗》を越えられないし、同じターンに出てきたやつにはブロックされないんだから!
つまり、2ターン目に熊を呼ばれたのに何もできず、相手に1ビート取られてしまった場合でも、《茶鱗》をプレイすれば熊はもう攻撃にこれないのだ。しかも、こっちのターンになってしまえば多分相手は《茶鱗》をブロックできないはずだ。さもなければ、こっちにマナがあるときに2体ブロックをするリスクを冒すことになる(相手が典型的なコストのクリーチャーを呼んだと仮定してだ)。
この効果を僕は「無理やり一時停止」と呼んでいる。相手からは攻撃ステップを奪っておきながら、自分の攻撃はうまいこと続けるからだ。呼び方は何でもいいんだけど、この現象はリミテッドで実によく見られるからこの記事でも必ず触れようと思っていた。もうひとつのいい例は、パワー3が僅かしかいなかったオデッセイドラフトだろう。その理由は、4マナ2/3のサイクルのクリーチャー(《クローサの射手》のような)が有効に働くからで、最初に現われた時点で相手の攻撃を封じつつ、望むなら次のターンには殴りに行ける。こうした過程を通じて、自分のターンには殴りに行きつつ(殴りに行くよね)この種のクリーチャーは基本的に相手の攻撃フェイズを1回取り除いている。この手のクリーチャーを予定通りにプレイしていけば、相手が攻撃を宣言しようとするのをどもらせながら、相手よりもレースで半ターン優位を得られる。そのターン自分にくるダメージを防ぎながら、自分の攻勢は手を進め続けられるのだ。こうした効果をその他の実際にビートを増強する手段と組み合わせれば、たちどころに相手はのけぞりかえることだろう。
攻めと受け
ここからまた別の話に繋がって行く。攻めのテンポと守りのテンポだ。ここまでずっと、互いに競り合う2つの攻めのデッキにばかり焦点を当ててきたが、それだけではマジックというゲームの機能を説明し尽くしたことにはならない。特に、構築フォーマットに目を移した場合にはだ。攻める側の場合は、攻撃を助長するプレイングがテンポを伸ばした。それとは別にまた守りには守りのテンポがあり、場を膠着させることを目指して展開される――ここまでくると、より防御的なデッキが焦点に当てられる新しい次元に突入する。
だから、テンポを競り合うにも、自身を対戦ごとに評価しなおす必要がある。純正のコントロールデッキに対する攻撃的デッキは、1ターン目2ターン目に軽量のビート要員を展開すればビートで上回ることができるだろう。しかし、ここで3ターン目に《木彫りの女人像》か何かを呼ぶために費やしてしまったら、相手のデッキが何かしら地上を通るクリーチャーを採用していない限り、ビートの無駄になってしまう。
攻めのデッキは、ビートを生み出して守りのデッキを圧倒していくことが鍵になる。守りにおいては、鍵は多くの場合、相手の攻撃をまとめて無効化できるビートのプレイとなる。たとえば、《槍の壁》なんかは(わかるだろうが、リミテッドの話だ)、タフネス2のクリーチャーで溢れかえった攻撃的デッキにとっては痛手となる。上に出た例で《歩兵部隊》のようなカードが、いかにして見せ掛けのテンポを生み出すかを確認した。攻撃に対し割に合わない代価を課すということだ。しかし、そうして守りを固めつつも、同じくビートの展開も両立させて首座を転落しないようできるなら、それはもはや見せ掛けのテンポではなく本当の意味での場の膠着であり、覆しようのないものとなっていく。これこそが、リミテッドで後半に力を発揮するデッキが2/4のようなサイズのクリーチャーに支えられている、その原理に当たる。2/4のようなクリーチャーは相手のクリーチャーを複数無効化できるからだ。(そして、それ自ら(みずから)が自ずから(おのずから)、一種のカードアドバンテージとなる。) そして、実際のテンポ(見せ掛けのテンポではなく)に近づいていくにつれ、攻撃的デッキにとっては築き上げられた防御を突き崩すことが困難になる。ビートが攻めと守りとにどのような相互作用を持っているかの認識が深まるにつれ、攻めと守り、いずれのデッキもよりよいドラフトが(つまり、よりよいビートが、だ!)できるようになるだろう。
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